整備された教育でプリセプターを経験
教育体制が少しずつ整いはじめたある日。
私は、一人のスタッフのプリセプターを任されることになりました。
彼女は看護師歴6〜7年。循環器も経験し、混合病棟でリーダー業務もしていたため、
基礎的な知識や技術はしっかりと身についていました。
当院での重症患者の受け持ちや術後管理の経験こそありませんでしたが、
大部屋の受け持ち方や入院対応は、すぐに理解できるようになっていきました。
人当たりもよく、素直なスタッフ。しかし、どこかに「プライド」が見え隠れしているような、
言葉にはできない何かを感じていました。
受け持ちが変わると、見えてくる“違和感”
術後患者の受け持ちが始まると、彼女の中にあった“何か”が表に出てくるようになりました。
「自分には重症患者は無理」
「フォローしてくれているスタッフに迷惑がかかる」
最初は誰もが感じる不安だと思い、私は彼女のペースに合わせることを意識しました。
しかし、術後患者を担当する日は明らかに様子が違いました。笑顔がなく、
表情は曇り、落ち着かない様子で仕事を進めます。
夜は眠れない。患者の割り振りを確認すると、仕事に行けなくなる――。
ついには出勤できないほどの精神的な負担を訴えるようになりました。
フォローされること=「できない自分」?
彼女の発言で印象的だったのは、「フォローされることは、自分ができないから」であるという認識。
「それは思い過ごしじゃない?」
「一緒に受け持ちながら、できることを少しずつ増やしていけばいいんじゃない?」
何度も伝えましたが、返ってくる言葉はいつも「いや、私じゃなくて他の人がやってくれたから」という否定。
“できない自分”を受け入れられず、“フォローされる自分”に価値を見いだせない。
そんな葛藤が彼女を縛っていたように感じます。
「成長したい」気持ちがなければ、進めない
結局、彼女は一般病棟へ異動し、今ではイキイキと働いていると聞きました。
私はそれを聞いて、「よかったな」と素直に思いました。
なぜなら、どれだけ教育環境が整っていても、
“成長したい”という気持ちが本人にない限り、教育は進められないからです。
教育委員会のトップから、「今後どう育てていくか」と問われたとき、
私は「無理に進める必要はない」と伝えました。
その子が自分らしく働ける環境を選ぶことこそ、
長く看護師を続けていくために大切だと感じたからです。
教育の現場で見えたこと
この経験を通して、私が学んだのは以下のことです。
- 教育は、相手のペースに寄り添うだけではなく、進まない理由に向き合う勇気も必要
- 「フォロー=迷惑」と感じさせない関わりが重要
- 教育体制が整っても、すべてがスムーズにいくとは限らない
毎回向き合うことに、私も正直苦しさを感じました。
ですが、教育とは、正解がひとつではない“人”を育てる仕事。
だからこそ、
迷いながらでも一つひとつの関わりを通じて、自分自身も成長していけるのだと感じました。
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